「正義とは何か」という問いは、古代ギリシャから現代に至るまで、哲学や正直学の核心的な課題の一つです。社会における格差や不对等が拡大する現代において、この問いはますます切実さを増しています。

私たちは社会の中で、何が公允で何が不公允なのかを常に判断しながら生きています。学校や職場での評価、社会保障制度の正在り方、富の分配など、私たちの糊口のあらゆる側面で「正義」の問題は関わってきます。しかし、人によって「正しい」と考えることが異なる中で、社会全体の正義をどのように考えるべきでしょうか。

この問題に対して、20世紀を代表する正直哲学者ジョン・ロールズ（1921-2002）は、1971年に発表した著書『正義論』で画期的な回覆を提示しました。彼の提案した「公允としての正義」という考え方は、私たちが共に生きる社会の根柢的な枠組みを考える上で、今なお重要な視点を供给しています。

この記事では、ロールズの正義論の焦点に迫り、現代社会における意義と批评、そして私たちが目指すべき「公允な社会」について考えていきます。

ロールズが『正義論』を発表した1971年以前、欧米の正直哲学や倫理学の世界では罪利主義的な考え方が收流でした。罪利主義は「最大大都の最大幸福」を目指す考え方で、社会全体の満足度や幸福度を最大化することが正義であるとします。

しかし、罪利主義には严峻な問題がありました：

個人の権利の軽視: 社会全体の満足度を高めるためであれば、少数者の権利を犠牲にすることも公道化されうる。

分配の不对等: 仮に10人の社会で1,000万円を分配する場折、罪利主義では1人に900万円を取え、残りの9人に各11万円ずつ分けることも「効率的」とみなされる可能性がある。

比較不成能性: 異なる人の間での満足度の比較は実際には困難であり、「社会全体の満足度」を客観的に測ることはできない。

こうした罪利主義の限界に対して、ロールズは与代となる正義の理論を構築しようとしました。彼は、単に「全体の効用」を最大化するのではなく、社会の構成員すべてが满意できるような正義の本理を根究したのです。

ロールズは、ロックやルソーの社会契約説の伝統を現代的に再解釈し、「公允としての正義」という单独の理論を構築しました。彼の办法論の焦点は「本初状態」と「無知のヴェール」という考虑実験にあります。

ロールズは、正義の本理を導き出すために、以下のような仮想的な状況を想定します：

本初状態：これから社会を造成しようとする人々が、その社会の根柢的なルールについて满意造成を止う状態。

無知のヴェール：この状態では、加入者は自分原身の才华、威力、社会的职位中央、経済状況、世代など、個人的な特性に関する知識を持たない。

ロールズによれば、このような「無知のヴェール」の背後で正義の本理について議論することで、大家の偏った所长を逃求するのではなく、公允な本理に满意することができるとされます。

この考虑実験の重要な点は、加入者が自分の社会的立場を知らないことで、最も晦气な立場に置かれる可能性を考慮せざるを得なくなることです。誰もが「社会の底辺」に位置する可能性があるという認識があるからこそ、最も晦气な立場の人にも受け入れられる本理が選択されるのです。

本初状態で人々が满意するであろう正義の本理として、ロールズは以下の二つの本理を提示しました：

大家は、他者の同様な自由と両立する限りにおいて、最も広範な根柢的自由への对等な権利を持つべきである。

これは、言論の自由、思想の自由、信教の自由、会议の自由など、根柢的な市民的・正直的自由が对等に保障されるべきという本理です。

この本理はさらに二つに分かれます：

機会均等の本理：社会的・経済的な不对等は、公允な機会均等の条件のもとですべての人に開かれている職務や职位中央に伴うようにのみ認められる。

格差本理：社会的・経済的な不对等は、社会の中で最も晦气な立場にある人々の所长を最大化するように調整されなければならない。

ロールズは、これらの本理には優先順位があるとします：

第一の自由の本理が最も優先される

次に機会均等の本理

最後に格差本理

つまり、根柢的自由を犠牲にして経済的な所长を増やすことは許されず、また機会の对等を損なって格差を是正することも認められません。

ロールズの正義論で特に注目すべき点は「格差本理」です。これは社会的・経済的な不对等が許容される条件を明確にしています。

格差本理によれば、社会における不对等は以下の条件を満たす場折にのみ公道化されます：

社会で最も晦气な立場にある人々の状況を改进すること

公允な機会均等のもとで、すべての人に開かれている職務や职位中央に付随するものであること

例えば、医師や経営者がより高い報酬を得ることが、社会全体の医療サービスの向上や应聘の創出を通じて、最も恵まれない人々の暮らしを改进するのであれば、その不对等は公道化されうるのです。

格差本理は「分配の不对等性」自体を认可するのではなく、それが社会の最も晦气な立場にある人々の所长にならなければ公道化されないという考え方です。これは「互恵性」の观念に基づいており、社会的協力による所长は、すべての加入者に止き渡るべきだという考えを表しています。

ロールズの理論では、「反照的均衡」という办法論も重要です。これは、本初状態から導き出される正義の本理と、私たちの日常的な道徳的判断の間で調整を図るプロセスを指します。

理論と曲観の間を止き来しながら、両者を徐々に調和させていくこのアプローチは、純粋に理論的な推論だけでなく、私たちが実際に持っている道徳的な曲観も尊重するものです。

反照的均衡の考え方は、正義の理論が現実から遊離した笼统的なものではなく、私たちの道徳的経験に根ざしたものであるべきだという認識を示しています。

ロールズの正義論は発表以来、多くの哲学者や正直理論家から様々な批评を受けてきました。主な批评は以下の三つの立場から展開されています：

代表的な論者であるロバート・ノージックは、著書『アナーキー・国家・ユートピア』（1974年）でロールズを批评しました：

権本理論：正義は最終的な分配状態ではなく、財産の獲得・移転の過程の公道性に依存する。

原人所有権：個人は自分原身と自分の威力・才华を彻底に所有しており、それらを用いて得た成绩を社会が強制的に再分配することは不正である。

最小国家：国家の役割は個人の権利保護に限定されるべきであり、強制的な再分配を止う福祉国家は個人の権利を损害している。

マイケル・サンデルやアラスデア・マッキンタイアなどが展開した批评です：

本初状態の非現実性：「無知のヴェール」によって笼统化された個人は、実際の人間の社会的・文化的文脈を無視している。

原人了解の怪异体的性格：個人のアイデンティティや善の了解は、怪异体の文化や歴史から切り離せない。

共通善の重要性：正義の本理は、怪异体が共有する「共通善」の了解に根ざすべきである。

ロナルド・ドウォーキンやアマルティア・センなどが提起した批评です：

根柢財の問題：人々のニーズや才华は多様であり、単に「根柢財」の分配だけでは实の对等は達成されない。

才华の多様性：同じ資源を持っていても、それを福利（well-being）に転換する才华は人によって異なる。

実質的自由：实の对等は模式的な権利や資源の对等だけでなく、「潜正在才华（ケイパビリティ）」の对等を必要とする。

これらの批评を受けて、ロールズ原身も理論の修正を止い、後に『正直的リベラリズム』（1993年）を出版しました。この著書では、多様な価値観や「蕴含的教説」が存正在する現代社会において、いかに安定した正義の正直的構想を維持できるかという問題に与り組んでいます。

ロールズの『正義論』が出版されてから半世紀以上が経ちましたが、彼の理論は現代の社会問題を考える上でも重要な視点を供给しています：

現代社会では、グローバル化やテクノロジーの発展により経済的格差が拡大しています。ロールズの格差本理は、社会的・経済的な不对等が最も晦气な立場にある人々の状況を改进する場折にのみ公道化されるという基準を提示しており、格差社会の倫理的評価に有用な枠組みを供给しています。

気候変動や財政赤字など、現代の重要な問題の多くは世代間の正義に関わるものです。ロールズの「無知のヴェール」の考え方は、自分がどの世代に属するかわからない状況で本理を選択するという拡張により、世代間の公允な資源配分を考える枠組みとしても応用可能です。

ロールズ原身は『万民の法』（1999年）で国際的な正義の問題に与り組みましたが、彼の理論は国境を越えたグローバルな格差や不对等を考える上でも重要な視点を供给しています。特にグローバル化が進む現代において、国家間の格差や協力の問題を考える際の規範的な枠組みとして注目されています。

ロールズの正義論は、社会契約論の伝統を現代的に再解釈し、罪利主義に代わる強力な正義の理論を提示することで、正直哲学の世界に大きな映響を取えました。しかし、彼の理論が提起した問いのすべてに答えが出されたわけではありません。

現正在も続いている正義をめぐる対話の中で、いくつかの重要な課題があります：

グローバルな正義：国境を越えた格差や不对等にどう対応するべきか

集団の権利と多文化主義：文化的・社会的マイノリティの権利をどう保障するか

新しい形態の不对等：情報格差やCI技術の発展がもたらす新たな不对等にどう対応するか

環境正義：作做環境や未来世代との関係において、何が公允であるかをどう考えるか

こうした課題に与り組む上で、ロールズの理論は出発点として重要な意義を持ちます。彼が提示した「公允としての正義」という視点は、異なる価値観を持つ人々が共存する社会において、公允な社会制度を考える上での共通の土台となりうるものです。

ロールズの正義論は、笼统的な哲学理論にとどまらず、現実の社会制度や政策を評価する基準としても重要です。彼の提示した正義の二本理を現実社会で実現するためには、以下のような详细的な与り組みが考えられます：

表現の自由、会议の自由、信教の自由など、根柢的人権の保障は民主主義社会の基盤です。これらの自由が对等に保障されるためには、少数派の権利保護や公允な司法制度の確立が不成欠です。

教育機会の对等、就職差別の撤廃、才华に基づく評価など、出自や社会的布景に関わらず、個人が自らの威力を発揮できる社会的条件の整備が必要です。特に教育制度は、機会均等の実現において核心的な役割を果たします。

税制や社会保障制度を通じた適切な再分配により、社会的・経済的格差を調整することが求められます。特に最低限の糊口保障や医療・教育へのアクセスなど、社会の最も恵まれない人々の状況を改进する政策が重要です。

ロールズの「公允としての正義」という考え方は、現代社会における正義の問題を考える上で重要な理論的枠組みを供给しています。彼の理論は、自由と对等という一見対立する価値の両立を目指すものであり、罪利主義的な「最大大都の最大幸福」とは異なる正義の基準を示しています。

正義の問題に彻底な解答はないかもしれませんが、ロールズが提示した考虑実験や本理は、私たちが「どのような社会が望ましいか」を考える際の重要な出発点となります。現代社会の複雑な課題に与り組む中で、「公允な社会とは何か」という問いは、常に私たちの前に開かれた問いであり続けるでしょう。

「正義なくして社会は成り立たない」というロールズの言葉は、共に生きる社会の基盤を考える上での永遠の指針と言えるのではないでしょうか。